「伊予市双海発」愛媛湘南化プロジェクトとは?!
2026.03.10

PROFILE
中村 克史さん
伊予市双海町在住。「愛媛湘南化プロジェクト」の発起人。湘南・茅ヶ崎での暮らしをきっかけに、双海の海岸線に湘南のような“空気感”をつくれないかと活動をスタート。コミュニティFMでの番組発信や、トゥクトゥクを活用した取り組みを通じて、愛媛の海の魅力や新しい楽しみ方を発信している。

▲中村さん宅の倉庫には、バイクやトゥクトゥク、人力車などたくさんの乗り物が所狭しと並ぶ
湘南で出会った“空気”
「湘南って地名はないのに、“湘南”って言ったらみんな分かるでしょう?」
そう語る中村さんが、湘南・茅ヶ崎市で過ごしたのは、わずか1年ほどのことでした。憧れて移り住んだわけではなく、たまたま仕事の関係で滞在することになった場所。それでも、その1年は強烈な印象を残したといいます。
海岸線を走る車。サーフボードを積んだワゴン。潮の香りを含んだ風。夕暮れ時の空気までもが、どこか自由で、肩の力が抜けている。
「景色というよりも、『そこに流れている空気感』に心をつかまれました」と振り返ります。
「本当は、ここにずっと住みたいと思っていたんです」。完全移住も考えましたが、家庭の事情で愛媛に戻ることに。湘南で感じた心地よさを胸に抱えたまま、地元へ帰ることになりました。
その後、縁があって拠点を構えたのが伊予市双海町。
海沿いを走る「夕焼け小焼けライン」を目にしたとき、「ちょっと無理矢理ですが、『海』と『夕焼け小焼けライン』、江ノ電みたいに海沿いを走る『予讃線の一両列車』。これに気がついたときに、湘南みたいなムードを作れるかもしれないって思ったんです」。
この気づきが「愛媛湘南化プロジェクト」へとつながっていきます。

▲「海アフロ」のオリジナルステッカー
双海で始めた“空気づくり”
双海で暮らし始めた中村さんが、「愛媛湘南化プロジェクト」として最初に取り組んだのはラジオでした。
コミュニティFMで、海の話題を語る番組「海アフロ」をスタート。愛媛の海の楽しみ方や、車やバイクで巡る風景の魅力を、自身の言葉で発信してきました。
「愛媛の海って、こんなに面白いよね、とか。こうやって過ごしたら楽しいよね、とか。そんなことを話しているだけなんですけどね」。番組は伊予市内だけではなく、宇和島や今治など、県内各地でも聴かれているといいます。
「だから“双海湘南化”じゃなくて、“愛媛湘南化プロジェクト”なんです」。
双海から始まった取り組みですが、視野はもっと広く、愛媛全体の海の楽しみ方を面白がることを提案したいと中村さん。
自身が面白いと思うことを発信し続けている中村さんですが、その積み重ねが少しずつ“独特の空気”を形成しはじめました。そして、その象徴がトゥクトゥクです。
湘南といえば、海岸線を走る車やサーフボードが思い浮かぶように、双海にも「これを見たら双海や」と思える風景をつくれないだろうか。そう考えたときに出会ったのが、トゥクトゥクだったといいます。
「走っているのを見るだけで、みんな笑顔になるんですよ」
最初は小さな車体から始まりましたが、自分だけでなく、家族や仲間と一緒に風を感じられるように、やがて9人乗りの大きなトゥクトゥクへ。

▲愛犬と一緒にトゥクトゥクでドライブができる「ワンちゃん便」を企画。伊予市内のカフェ「GO★CAFE」で実施中!
トゥクトゥクではタクシー業務はできないという制約の中で、犬を乗せて海まで走る“わんちゃん便”や、折りたたみ自転車を運ぶ取り組みも生まれました。
トゥクトゥクは“事業”ではなく、中村さんにとっては、双海の空気感を可視化するアイコンのような存在。
「地域を盛り上げようと思ってやっているわけじゃないんですよ。ただ、自分が面白いと思うことをやっているだけなんです」。まずは、自分が楽しむこと!その姿勢はぶれません。
地域活性が目的ではない理由

▲折りたたみ自転車を運ぶことで、サイクリングもトゥクトゥクも楽しめる
「地域を盛り上げようと思ってやっているわけじゃないんです」と中村さん。
愛媛湘南化プロジェクトも、双海を観光地にしようという構想から始まったわけではなく、ただ、自分がここで心地よく過ごしたい。湘南のムードを表現したい。そのために、面白いと思うことをやっているだけだといいます。
「逆に自分が面白がってないと、空気って変わらないと思うんですよ」
中村さんの出身は伊予市ではあるものの、双海地区ではなく、伊予市郡中地区。双海は“地元そのもの”ではありません。しかし、そのわずかな距離が自由さにつながっているといいます。
「地元だったら、この活動はやってなかったと思いますね」。
よそ者でもなく、完全な地元でもない。その立ち位置だからこそ、肩肘張らずに、好きなことを好きなように続けられるようです。
好きなことをして、結果として、それが町の風景を少し変えることがあれば、それはうれしい。けれど、それを最初から目的にはしない。という明確なスタンスがあります。
派手なイベントや大きな事業ではなくても、海岸線にトゥクトゥクが走るだけで、景色は少し変わります。土地の空気感は、楽しんでいる人のところから、少しずつ変わっていくのかもしれません。
周りがちょっと楽しくなれば、それでいい

▲トゥクトゥクには、みんなが自然と笑顔になる魅力がある
活動を続ける中で、忘れられない出来事がありました。
2025年末の深夜3時。自宅にトラックが突っ込む事故に遭った中村さん。奇跡的に無傷だったものの、建物は大きく損壊し、拠点を失うことになりました。双海を離れ、実家に戻る選択肢も頭をよぎったといいます。
そのとき動いてくれたのが、双海最高カンパニーCEOの上田沙耶さんでした。
「僕、背が高いから“デカムラ”って呼ばれてるんですけどね(笑)。『デカムラさん(中村さん)を双海から出したらいかん!』って言ってくれて」。
そう言って、上田さんは必死に住む場所を探してくれたといいます。空き家だった隣家に声をかけ、倉庫も使えるよう手配してくれました。
「自分では地元に戻ろうかなとも思っていたんです。でも、このことをきっかけに、双海との縁をもっと大事にしたいなと思いました。ただ、楽しいからやっている活動ですが、自分がやっていることの意味というか、存在意義みたいなものを感じましたね」。
この出来事が、「やれる時にやる」という思いを、より強くしたといいます。そして中村さんは、こんな例えを口にしました。「僕が目指しているのは、たこさんウインナーみたいな存在です」。
誰もが知っていて、誰もが笑顔になる。でも、それを最初に思いついた人の名前は知らない。「名前は知られなくてもいいんです。ただ、自分がやっていることで、周りがちょっと楽しくなれば、それでいい」。そう言いながら中村さんは、穏やかに笑っています。




